ico_imgインタビュー:日本工芸株式会社(東京都渋谷区)

現代の暮らしに活きる工芸品のECサイト「日本工芸堂」を運営

松澤斉之氏
日本工芸株式会社・代表取締役社長の松澤斉之氏

アマゾンの凄腕バイヤーから転身し、日本の伝統と歴史を誇る工芸品の販売に特化したEC事業を展開する会社を興した松澤斉之氏。飾って鑑賞する美術品とは違う、“用の美”を備えた工芸品の魅力を国内外に発信し、産地の活性化にも貢献しようと日々奮闘中です。

 

異色の経歴を持つ松澤氏に、事業内容、起業の経緯、都内立地を選んだ理由などについて伺いました。

●長い歴史と文化をまとう日本の工芸品産業の再興に貢献
江戸切子
「日本工芸堂」で扱う商品の1つ、江戸切子
日本の工芸育成
1回目の寄付先は会津塗りの産地組合。若手育成の訓練校運営に役立てるそう。

日本工芸の事業の柱はEC事業です。国内外から注文できる越境ECサイト「日本工芸堂」を通じて、日本全国の産地からセレクトして仕入れた工芸品をオンライン販売しています。日本の工芸品を取り扱う国外の店舗や事業者へ卸売りする海外販売事業や、ECを軸にした販路開拓や販促支援のコンサルティングも展開中です。

 

松澤氏の前職は、アマゾンの「ホーム事業部」のシニアバイヤーでした。展示会を回ったり、組合や金融機関からの紹介でベンダーやメーカーを訪問したり、2,000社を越えるメーカーを開拓したそうです。家具から雑貨まで、一通りの家庭用品が集まって来ると、次第にニッチな工芸品に目が向き始めました。

 

「国内の工芸品産地をくまなく回って、窯元や工房で話を詳しく聞くうちに、品物の精緻さや美しさ、職人やメーカーのこだわりに感銘を受ける一方で、産地の厳しい現状に直面しました。工芸品の生産額は、1980年代半ばのピーク時から30年で5分の1に減り、インターネットが盛んになった現在でも、EC分野でどう売ればいいかわからないと悩んでいる姿です。

 

この長い歴史に培われた優れた文化を絶やしてはいけないと、40歳を過ぎてから思いが募るようになりました。そこで工芸品の素晴らしさを伝えながら、背景を理解して購入してくれる人たちにきちんと届けて残していきたい、作り手や産地に貢献できる事業をしたいと思ったのが起業の動機です」(松澤氏。以下コメントは同様)

 

2022年9月からは、売上の1%を工芸産地へ寄付するプロジェクトも開始しました。作り手の育成や産地の活性化に役立ててほしいとの思いです。松澤氏はM&Aアドバイザーの資格も取得しています。

 

「職人の高齢化、後継者不足で廃業の危機にある企業も少なくありません。手作りの技を紡ぐ職人と、事業を承継する経営者を分け、M&A(合併・買収)を増やして経営統合していかないと、日本全体の産地が衰退しかねません。M&Aに関する知識は、将来、必ず役立つと考えています」

 

仕入れ販売という川下から始まり、売り手と買い手のコミュニティへ、そして、職人や産地を巻き込んだエコシステムへの道筋を描いているようです。

                                  
●創業の地は高田馬場創業支援センター
Webページ
サイト構築は株式会社フルバランスが担当。松澤氏の意図を汲んだWebページが実現

日本工芸の創業は2016年12月、場所は新宿区高場馬場創業支援センター内のシェアオフィスです。アマゾンに入る前の松澤氏は起業家支援学校の事務長を任されていました。支援プログラムの作成や運営を担い、創業ノウハウを提供する側にいたわけです。いざ自分が起業する段になって、公的な創業支援センターを利用したのはなぜでしょうか。

 

「たまたま自宅が同じ区内の四谷で近かったことと、利用料が月額1万円という安さに惹かれて入居しました。創業初期はなるべくキャッシュアウトをなくしたいと考えていましたから。特別に何かを相談しようと期待したわけではありませんが、自宅に閉じこもってやるより、事務所の人と雑談したり、すぐそばに起業して頑張っている姿を見たりするだけでも、刺激を受けましたね」

 

EC事業に欠かせないキーマンとの出会いもありました。

 

「最初は、希望する機能を持ったECサイトがなかなか構築できずに苦労していました。ITベンダーの選択に失敗したわけです。別の仕組みに変えようと検討していたところ、偶然、適任の方がシェアオフィスの隣に座っている人だったんです。今も継続して相談しているパートナーとして、優秀なITエンジニアとの縁ができたのはありがたかったですね」

                                  
●東京に立地するメリット~ふんわりした雑談からチャンスが生まれる
展示コーナー
千駄ヶ谷オフィス内の展示コーナー

高田馬場創業支援センターの入居期限である2年を過ぎた後、新宿区内の別のシェアオフィスを経て、現在の渋谷区千駄ヶ谷にショールーム兼オフィスを構えました。

 

「自宅から歩ける距離にあるのと、近隣にはアパレル系の企業が多いファッショナブルな街なので、美しい工芸品を扱う場所としてもふさわしいと思いました。将棋会館が隣にあって勝運を引き寄せるパワースポットとして知られる鳩の森神社が近いことも気に入っています」

 

松澤氏は、商品を仕入れるために日本各地を巡る日数が多く、現在はオンラインでの商談も増えているため、合理的に仕事をするだけなら、東京にいる必然性はありません。それでも東京に拠点を構える意義は少なくないと言います。

 

「展示会も東京で行われることが多いですし、いろんなところに顔を出せるので、時間距離、移動距離が少ない。情報とヒトとモノが集まって来るのが第一ですね。ネット経由だと会うのにハードルが上がりますが、リアルならキーマンにも逢いやすいのは確かです」

                                  

 

松澤氏は自他ともに認める日本酒好きでもあります。

 

「本能的に酒場の近くにオフィスを構えてますね。自宅とオフィスの動線には必ず気に入った居酒屋や角打ちできる酒屋がある。このオフィスでも、定期的に“工芸バー”を開催しています。『工芸×地方創生』といったテーマを立て、月1回、6~7人で集まって、お店の備品のグラスで酒を飲む。ふんわりした雑談の中にチャンスがあったり、自然と仕事の接点もできたりする。やはりリアルに会って話すメリットは絶対にあります」

 

オフィス自体がヒトと情報を吸引する場になっているようです。

取材日:2022年(令和4年)10月5日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスク着用しております。)

【企業概要】
  • 会社名:日本工芸株式会社
  • 住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷2-39-3
    千駄ヶ谷ホリタン307
  • 代表者:代表取締役社長
    松澤斉之
  • 設立:2016年(平成28年)12月
  • 事業内容:EC事業、海外販売事業、販促支援コンサルティング
  • ホームページ:https://japanesecrafts.com/