ico_imgインタビュー:株式会社たびふぁん(東京都港区)

「旅のロングテールモデル」をつくる、若きスタートアップの挑戦

西岡貴史氏
株式会社たびふぁん代表の西岡貴史(にしおかたかし)氏

日本の旅をおもしろくしたいと、大学在学中に「株式会社たびふぁん」を創業した西岡貴史氏。ビジネスコンテストでの受賞歴も多く、その取り組みは各方面から期待と注目を集めています。

 

コンセプトとして掲げるのは、「旅のロングテール」。薄利多売というこれまでの旅行業界のビジネスモデルとは一線を画し、少量の旅行者をニッチなところに送り、その地域のファンをつくり収益化するために、東京を拠点に挑戦を続けています。

 

2023年に創業3年目を迎える同社の起業の経緯や事業内容、今後の展望などを伺いました。

●ニッチな旅の商品化を目指し、大学卒業を前に起業を決意
たびふぁんのシンボルイラストとロゴ
たびふぁんのシンボルイラストとロゴ。同社が目指す“ワクワクする旅”の世界観を表現している

「僕は旅行が好きで、将来は旅行会社で働きたいと考えていました。内定していた大手旅行会社に就職するつもりでしたが、そこでは僕のやりたいことはできないとわかったので起業を選択するに至りました」(西岡氏、以下コメントすべて同じ)

 

西岡氏は2021年2月5日、株式会社たびふぁんを設立。在籍していた専修大学のビジネスコンテストで優勝し、その賞金を創業資金にしたそうです。

 

「旅行業・観光業は薄利多売の業界で、重視されるのは予約数。大量の旅行者を送客するため認知度の高い観光地が優先され、旅行者も有名どころに目が向きがちです。でも、実は日本には有名ではないけれども魅力的な場所がたくさんある。僕は東北を旅したときにそれを実感しました。そういうニッチなところをいかに商品化していくかを考えたときに、今の大手旅行会社のビジネスモデルでは難しい。そこで考えたのが、ロングテールモデルでのビジネスです。」

 

旅行業界・観光業界に若い起業家が少ないことも、起業を後押したといいます。

 

「35歳までが若手と言われるぐらい年齢層の高い業界なので、今から挑戦すれば若手のうちに10数年はできます。また、僕のような人間がいることで、この業界に少しでも多くの若者を呼べればとも思っています」

                                  
●地方自治体とも連携し、ユーザー視点のコンテンツをSNSで発信
「デジタルデトックス」をテーマに実証実験
2022年9月には岡山県新庄村と連携し、「デジタルデトックス」をテーマに実証実験を実施
たびふぁんが運営するインスタグラム
たびふぁんが運営するインスタグラムには約5000人のフォロワーから、全国のニッチな情報がどんどん投稿されている
温泉botくん
エリアを選んで簡単な質問に答えるとおすすめの温泉を教えてくれる「温泉botくん」

現在、たびふぁんは2つの事業を展開。具体的なサービス内容を伺いました。

 

「ひとつは、マイクロインフルエンサーを活用した官民連携プラットフォーム『やどふぁん』です。旅行者向けのコンテンツだからこそ厳選することが大事で、昔ならプロが厳選するところですが、今は素人の中にもプロ顔負けの人がいます。そういう旅や観光に特化したマイクロインフルエンサーと地方自治体をマッチングして、新たな観光資源の創出と魅力発信に取り組んでいます」

 

これまでに岡山県新庄村、埼玉県横瀬町と連携して実証実験を行い、次のプロジェクトも進行中。その土地ならではのコンテンツの造成など、企画から提案するケースが多いといいます。

 

「もうひとつは、LINEから利用できる温泉レコメンドサービス『温泉botくん』です。日本全国に約3000カ所の温泉があるなかで、僕らの世代が重視するのは泉質とかではなく、その温泉地で何ができるか、どんな気分を味わえるか。加えて、今の若い世代は情報過多で選ぶことが苦手なので、そこを後押しするのがこのサービスのポイントです」

 

現在社員は2名。さらにフォロワー7万人のインフルエンサー、地域に親和性の高いインフルエンサーを囲んでいる連携パートナーとチームを組んでサービスを展開しています。

 

「これまでの旅行業は主に宿泊施設から手数料を取っていました。ところが僕らは、ユーザーからお金をもらおうと考えています。そうすれば広告費だけに頼らず、利用者にとっていい情報だけを提供することができる。それが僕らのサービスの強みだと思っています」

                                  
●東京は創業支援が手厚く、首都ならではの中立性を確保できる
「みたかビジネスプランコンテスト」で最優秀賞を受賞
たびふぁんは2021年度の「みたかビジネスプランコンテスト」で最優秀賞を受賞している

港区青山にオフィスを置くたびふぁん。日本全国を視野に入れた事業を展開する同社が、東京を拠点にした理由は2つあるといいます。

 

「第一に、創業支援が全国トップクラスで手厚いこと。コワーキングスペースの数にしても、支援にかける予算にしても他とは規模が違います。とりわけ『TOKYO創業ステーション』は、起業の準備段階から初期の支援メニューが充実。登録すれば施設が無料で使え、法律、銀行、特許など各分野の専門家が来てくれるなど、プレシードのいちばん大変な時期のサポートは本当にありがたかったですね」

 

TOKYO創業ステーションは丸の内と立川に施設があり、たびふぁんは立川の「TOKYO創業ステーション TAMA」や「東京都高校生起業家養成プログラム」のロールモデルに選ばれています。

 

「第二に、首都東京の中立性。たびふぁんという社名は、楽しませる意味の『fun』とファン作りの『fan』を掛け合わせたものです。僕らが取り組んでいるのは旅を楽しませる事業であって、地方創生や地域活性化ではありません。だから、どこかの地域に入り込むのではなく、中立でありたい。そのためにも東京という選択になりました」

 

東京の中立性を体現していると西岡氏が挙げるのが「NEXs Tokyo」。東京都が運営するこの事業は、情報とヒューマンネットワークの集積地である東京のリソースを活用し、全国各地と連携しながら国内外への展開を目指すスタートアップを支援する取り組みです。

 

「僕らも会員になり1年半にわたって支援を受けました。地方行政とのマッチングや、コワーキングスペースを無料で利用できるなどメリットは大きかったですね。東京から地方へ、地方から東京へ、世界へと出ていく人たちをサポートするハブ的な存在。僕らもそういう存在になりたいと思っています」

 

西岡氏は事業を展開するなかで、東京の奥深さを感じているといいます。

「実績作りのために多くのビジネスコンテストに出場しましたが、何でも受け止めてくれる懐の深さ、大らかさは東京の都市ならではですね。なかでも印象的だったのが三鷹市の『みたかビジネスプランコンテスト』です。一般に地域のビジネスコンテストは、その地域で創業する人を増やす仕掛けですが、三鷹は起業の場所は問わず誰でもウエルカムでした。

また、東京は多種多様な企業や産業が集まる集積地です。旅行は基本的にどんなものにも絡めるので、いろいろな新しいものと絡んで広がっていくことができる。それも東京の魅力だと感じています」

 

最後に今後の目標を伺いました。

 

「まずは温泉の分野からニッチなところにファンをつけていき、それがひいては地域活性、地方創生に結び付けばと思っています。2025年の大阪・関西万博までには、僕らのサービスによってどこか地方の温泉や地域が認知されていて少しでも、ロングテールがつくれていたら嬉しいですね」

取材日:2022年(令和4年)11月29日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスク着用しております。)

【企業概要】
  • 会社名:株式会社たびふぁん
  • 住所:東京都港区青山2-2-15
    WIN青山531
  • 代表者:西岡貴史
  • 設立:2021年(令和3年)2月5日
  • 事業内容:温泉botくんの運営と企画、やどふぁんの運営と企画、
    SNS運用、SNSプロモーション
  • ホームページ:https://tabifun.jp/