ico_imgインタビュー:カイテク株式会社(東京都渋谷区)

「介護×テクノロジー」で超高齢社会の日本を成功に導く

武藤高史氏
カイテク株式会社 代表取締役社長の武藤高史氏。祖父、父も起業家という「起業家一家」に育った

世界でも類を見ない超高齢化社会に直面している日本。2025年には、国民の約3人に1人が65歳以上になると推計されています。

これに伴って、待ったなしの危機的状況を迎えているのが介護問題です。2021年に厚生労働省が公表したデータによると、2025年度には介護職員の必要数が約243万人となり、2019年度(※)に加えて約32万人、2040年には約69万人の人材確保が必要とされています。

(※)2019年度時点の介護職員数は211万人

 

この国家的課題を解決するため、カイテク株式会社は、業界初の介護ワークシェアリングサービス「カイテク(旧 カイスケ)」を開発。「テクノロジーで介護医療現場の笑顔を1つでも増やす。」というポリシーで、介護人材を「取り合う」のではなく「助け合う」世界の実現を目指しています。

同社代表取締役社長の武藤高史氏に、起業の背景や業務内容、展望などを伺いました。

                                
●起業の原点は、自身の祖父の介護体験
カイテク株式会社が目指す最終的な目標(スーパーゴール)の説明画像
カイテク株式会社が目指す最終的な目標(スーパーゴール)

「起業の背景は2つあります。まず、私が学生のころ、祖父が認知症になり、家族介護をした経験です。徐々に家族介護の継続は難しくなり、最終的には介護保険サービスを利用することになり、介護施設に入所しました。この時に『介護業界で働く方々のスキルや使命感の高さ』に感銘を受けました。同時に介護人材が不足している危機的状況も知ることになり、日本社会の持続可能性の低さを痛感したんです。大学院を卒業してから約5年間、富士ゼロックス~スタートアップ企業のINNOBASE~インターネットで医療関連サービスを提供するエムスリーとキャリアを積んでいた間も、介護人材不足の課題感を忘れたことはありませんでした。その意識が遂に沸点に達し、自らの手でこの深刻な問題を解決したい!と起業を決意したんです」

 

ではもう1つの背景は何でしょうか。

「働く場所、環境は変わっても常に関わり続けていたインターネットと、介護業界の組み合わせに大きな可能性を感じたことです。特に、エムスリーでの経験でその思いを強くしました。プロダクトマネジャーとして、エンジニアと一緒に製品を開発するなかで、インターネットを掛け合わせた介護業界向けのサービスを開発するアイデアが膨らんでいきました。起業前、私は実際に介護事業所で介護職として働き、現場でテクノロジー活用が進んでいないことを肌で感じていました。そこで『ネットを使って効率的にたくさんの人に集めて“介護ワークシェアリング”が実現できれば、介護業界、ひいては日本社会に大きく貢献できる』と思ったんです。また、起業前の2016~17年ころには、介護問題を軸にしたスタートアップ企業がなかったため、我々がパイオニアになってイノベーションを起こせるはず…!という自信もありました」

●“埋没労働時間”を掘り起こし、介護業界を最適化
「カイテク(旧 カイスケ)」のワーカー向け情報の紹介画像
「カイテク(旧 カイスケ)」のワーカー向け情報
こちらは介護事業所向け情報。「カイテク(旧 カイスケ)」は特許出願済みのサービスの紹介画像
こちらは介護事業所向け情報。「カイテク(旧 カイスケ)」は特許出願済みのサービス

カイテクの創業は2018年2月。数名の創業メンバーで開発し、2020年1月にリリースしたのが、業界初の介護ワーキングシェアサービス「カイテク(旧 カイスケ)」です。これは、介護/看護/リハビリ職などの資格を有する介護ワーカー限定で登録し、WEB上で仕事を探して、1日・数時間単位から働くことができるサービス。また、仕事探しはもちろん、給与の受け取りまでをカイテク(旧 カイスケ)のアプリ1つで完結することができます。

 

一方、介護事業所にとってもカイテク(旧 カイスケ)は魅力的な仕組みです。突発的、あるいは慢性的に人手が不足している時間にワーカーを充当することで、マンパワーに余裕のある職場環境に改善できて正社員の負荷が減り、定着率のアップに繋げられるのです。さらに、共に働いた介護ワーカーの中から事業所にマッチする人材を選び、採用交渉へ進められる可能性も。つまり“お試し雇用”として活用することもできます。

 

「2022年10月現在、登録介護ワーカー数は約17,000人、登録事業所数は約1,700事業所です。人手不足が深刻なのはどの業界でも同じですが、特に介護・医療の世界では、人材の空白は、即、人の命に関わります。わずか1日でもケアをしてくださる人がいないと、亡くなられてしまう方がたくさんいらっしゃるわけです。そこで我々はカイテク(旧 カイスケ)を使って、子育てや、それこそ自分の身内の介護などでまとまった労働時間が確保できず、潜在的に埋もれている介護士、看護師の“埋没労働時間”を掘り起こし、介護業界の全体最適化を目指しています。困った時に助けてもらえる施設と、働きたい時に働けるワーカーの“濃過ぎず・薄過ぎず”の関係をつくっていければと考えています」

●東京は想いを表現する場とチャンスの数が格段に多い
社員の集合写真
社員の平均年齢は30代半ば。今後、事業投資・人材採用の本格化も図っていく

続いて東京立地の長所についてうかがいました。

 

「まずは起業家支援イベントが多く、そこでほかの起業家と出会い、横のつながりができること。そうした出会いを通じて刺激や情報を得られたり、新たなビジネスにつながったりするのは東京ならではですね。弊社には海外在住でフルリモートの社員もいますので、オンラインワークの合理性、有効性も十分に知っていますが、会うことで深い想いが分かったり、熱量が伝わったりする意義も重視しています。また、弊社の現在の主要な市場が1都3県であり、各介護事業所へのアクセスが良いこともメリットです」

 

さらに現在、カイテクが入居している青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)のような創業予定者や創業間もないスタートアップ企業をアクセラレートすることにフォーカスしたインキュベーション施設の存在や、支援プログラムの多様さ、充実度、加えて、次のようなビジネスコンテストの多さも魅力とのこと。

 

「おかげさまで、経済産業省『ジャパンヘルスケア・コンテスト2020』でアイデア部門グランプリ、総務省『令和2年度起業家万博』で総務大臣賞(優秀賞)をそれぞれ受賞させていただいたのですが、さらに、都内立地の企業だからこそ応募できた、SHINJUKU DREAM ACTIVATION2 U35新宿ビジネスプランコンテストでは最優秀賞、中野区ビジネスコンテストで最優秀賞/オーティス賞、品川区ビジネスコンテストで企業賞/奨励賞、Tokyo Startup Gatewayでセミファイナリスト、などの評価もいただきました。これらの受賞ニュースが業界誌などに取り上げられ、偶然その記事を見た企業様から出資されるケースがあったのも、都内で起業したからこそだと思っています」

 

最後に今後の展望を聞きました。

「コロナ禍において、実に多くのワーカー、介護事業者様にカイテク(旧 カイスケ)をご利用いただき、大きな手ごたえを感じることができました。ただ、もっとスケールが大きく、利便性の高い仕組みを構築できていたら、より一層役立てたはず、との思いもあります。2023年は、現時点の主戦場である一都三県開拓の拡充、さらにスピード感をもって名古屋、大阪、福岡へと展開を進めていきます。同時に“量”に加えて“質”の高さも両立できるプロダクトを創出していきたいですね。というのは、事業所にもよるのですが、本来なら介護ワーカーが担う必要のない業務もこなさなければならない状況が散見されるためです。介護ワーカーにしかできない仕事に集中していただき、介護の質を高めることで現場の効率化を図っていければと考えています」

取材日:2022年(令和4年)10月14日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスク着用しております。)

【企業概要】
  • 会社名:カイテク株式会社
  • 住所:東京都渋谷区神宮前5丁目53-67
    コスモス青山コスモスサウス 507
    (ASAC内)
  • 代表者:代表取締役 武藤 高史
  • 設立:2018年(平成30年)2月9日
  • 事業内容:介護ワークシェアリング「カイテク(旧 カイスケ)」の開発・運営
  •                                                     
    ホームページ:https://caitech.co.jp/