ico_imgインタビュー:株式会社ダイモン(東京都大田区)

民間で世界初の月面探索を実施する超小型軽量ロボットの「YAOKI」を開発

三宅創太氏
株式会社ダイモン COO(最高執行責任者)兼CBOの三宅創太氏

アポロの姉、アルテミスの名を冠したNASAの有人月面着陸プロジェクトの先行ミッション、CLPS(商業月面輸送サービス)で月に着く「YAOKI」。この月面ローバーを開発した発明家でロボットクリエイターの中島紳一郎氏が、ものづくり産業が盛んな東京都大田区で立ち上げたのが株式会社ダイモンです。

 

同社のCOOで企業ブランディングも兼ねる三宅創太氏に、創業の経緯や事業内容、将来の展望について伺いました。

●東日本大震災の日、大田区のモノづくり会議の場で起業を決意
月面ローバー(探査車)「YAOKI」
縦横高さのサイズは「15×15×10cm」、重量はわずか498g。玩具のようなかわいらしい外見とは裏腹に、100Gの衝撃に耐える高強度を持つ。転んでも倒れても走り続けられる「七転び八起き」から命名した月面ローバー(探査車)「YAOKI」

ダイモンのCEO・中島紳一郎氏は、アウディの四輪駆動システム「quattro」の開発も手掛けたエンジニアとして知られています。そんな輝かしい名声を捨て、独立起業したキッカケは東日本大震災でした。2011年3月11日、中島氏は、大田区の金属加工会社である東新製作所の石原幸一社長が主宰する、新しいモノづくりネットワーク「発電会議」に聴講者として参加していました。その最中に、震源地の福島から200km以上離れた東京も未曾有の揺れに襲われたのです。

 

「かつてない社会的な混乱を目の当たりにして、埼玉の自宅まで2日かけて戻る間に、『挑戦的な技術開発を目指し、世の中に役に立つモノづくりをしよう』と思い立ち、帰宅した頃には会社を辞める決意をしていたそうです」(三宅氏、以下同)

 

発電会議で知己を得た東新製作所の工場の一画を借り、中島氏は、2012年2月に一人で会社を設立しました。ギアの技術を応用できる風力発電装置などの開発を手掛けるかたわら、中島氏はGoogle主催の月面無人探査コンテスト「Google Lunar X PRIZE」に挑戦する日本チームに、技術提供ボランティアとして参加。初めて宇宙と出遭います。これを機に、自社で月面ローバーを独自開発し、足掛け8年で完成させました。

 

「技術特許を取得してプロトタイプをお披露目するために、2019年4月、YouTubeにプロモーション・ビデオを公開したところ、翌月に、アメリカの宇宙開発ベンチャー、アストロボティック・テクノロジー社の担当者から直接コンタクトが来たんです。ちょうどNASAアルテミス計画のCLPSという着陸船の契約が成立したので、混載OKのスペースに乗るチケットを買わないかと。間髪を入れずにイエスと返事をし、その年の9月には契約していました」

                                  
●「YAOKI」100機による群探査で月面資源地図の作成に挑戦
YAOKI
アストロボティック・テクノロジー社のランダー(月着陸船)と「YAOKI」(右下)
ダイモンの三宅氏
「福島イノベーション・コースト構想」の合同プレス発表会で発表するダイモンの三宅氏※1

宇宙産業が盛んな、アメリカ企業の目に留まったのが、掌に乗るサイズで500グラムを切る超小型軽量のローバー「YAOKI」です。それまでの月面ローバーの重量は最小でも5kg。月面輸送のコストは1kg=1億円と言われるだけに、10分の1以下に縮小化した技術は画期的でした。

 

「YAOKI」は、月輸送ミッション「CLPS」を担うアストロボティック・テクノロジー社の月着陸船に乗り、2023年に民間による月面探査を実施する予定です。2028年までに月面基地を建設することを目指す「アルテミス計画」への貢献も視野に入れています。2025~26年頃に、「YAOKI」100機を月面に送り、多数のローバーが連携した「群探査システム」による月面資源地図の作成にも挑戦する計画です。

 

これらの宇宙開発ロードマップに関わるプロジェクトとして、ダイモンは「福島イノベーション・コースト構想」への新規参画を、2022年9月に発表しました。具体的な取り組みは

「福島でYAOKIの群探査システム開発と月面環境の実験を行うと同時に、そこで培われたノウハウを転用して、廃炉点検ロボットや災害時に対応できる地上機の開発に取り組みます。併せて、地上と月の技術シナジーをテコにしたエンジニアの人材育成、宇宙教育エンタメ事業の確立などを通して、宇宙産業クラスターを創出し、福島復興につなげていきたいと考えています」

 

※1https://www.fipo.or.jp/news/20609

                                  
●東京立地のメリット~ステークホルダーの圧倒的なボリュームと連携のスピード感
紙面
「月面開発フォーラム」について紹介する日刊工業新聞の紙面。宇宙関連企業約300社を巻き込んで月面工場構想を進める。※2
操縦体験イベント
新川崎で開催された「YAOKI」の操縦体験イベント。教育・エンタメ事業にも熱心に取り組む

ダイモンは現在、大田区本社の他に、池袋に組立所、新川崎に実験場という複数の拠点を持っていますが、次なるステップも模索しています。

 

「宇宙産業の世界市場は、現状の70兆円から2050年には300兆円に拡大すると見込まれています。この伸び代の大きなマーケットを日本のモノづくり企業が積極的に取りに行き、産業振興に結び付けていくことを目的に、日刊工業新聞と組んで『月面開発フォーラム』を立ち上げました。現在取り組んでいるプロジェクトの1つが、月面で活躍するモビリティを月の資源を使って製造する100%自動化工場を月の地下空間に作る構想。そのために必要なのが、地球からの遠隔操作でオペレーションできる “工場のデジタルツイン化”です」

 

この壮大な構想を経営者から子供たちまで広くアピールし、月面における未来のモノづくりの可能性を実感してもらうために、同社は、新たな拠点を構築しようと検討中です。その核になる施設の候補は、やはり東京23区内だと三宅氏。

 

「産業立地としては、23区内の吸引力は段違いに大きいからです。そもそもダイモンは、東京に立地していなければここまで大きくなれませんでした。ステークホルダーのボリュームが絶対的に大きいからです。事業のサポートを依頼するにしても、キーマンに出会える確率が高いし、とにかくつながるのが速い。圧倒的なボリュームとスピード感があります。宇宙産業を活性化するために、未来志向の世界観を共有できる人たちが集積する活動は、東京だからこそ加速できると思います」

                                  

 

 

※2https://d3ukgu32nhw07o.cloudfront.net/space_pdf/pdf_file62e255f4670a1.pdf                                  

取材日:2022年(令和4年)9月20日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスク着用しております。)

【企業概要】
  • 会社名:株式会社ダイモン
  • 住所:東京都大田区大森南
    4-10-20
  • 代表者:代表取締役CEO兼CTO
    中島紳一郎
  • 設立:2012年(平成24年)2月
  • 事業内容:設計コンサルティング、月面探査ロボット事業、
    ロボット・5Gアンテナ等の設計
  • ホームページ:https://dymon.co.jp/