ico_imgインタビュー:株式会社VALUE CARE(東京都渋谷区)

新規事業への挑戦も!高齢者IoT見守りのパイオニア

井出清氏
株式会社VALUE CARE 代表取締役 井出 清氏

世界のどの国も経験したことのない超高齢社会に突入している日本。2022年9月18日、敬老の日を前に総務省統計局が公表した数値では、65歳以上の人口は3627万人。高齢化率は29.1%を示しました。

 

これに伴ってクローズアップされているのが、一人暮らしの高齢者増加に伴う「孤独死」です。2019年、東京23区内で一人暮らしをしている65歳以上の人の自宅での死亡者数は3936人。2011年から9年連続で増加しており、現在もその傾向は変わらないとみられます。

 

そうした状況を打破し、「誰も取り残さない」をポリシーに、高齢者の孤独死解消に取り組んでいるのが高齢者IoT見守りサービスを提供する株式会社VALUE CAREです。代表取締役の井出清氏に、起業の経緯や製品の特徴、展望などを伺いました。

● 「Sigfox回線の国内登場」を好機と捉えて起業決意
IoT見守りサービス
Sigfoxを活用しIoT見守りサービスを展開

井出氏が起業したのは2017年8月。背景にあったのが、長野県で一人暮らしをしていた祖母の存在でした。

「当時、高齢者見守りサービスと言えば、Wi-Fi、ネット環境 あるいは携帯電話の回線などを活用したメールでのお知らせが中心でした。ただ、そうした環境を整備するためには、大きく2つの課題があったのです。まずはコストです。通常、高齢者が一人で住む住宅にはインターネット回線がなく、新たに回線を引き込むか、回線組み込み済みのシステムを用意する必要があり、総じてコストが高くなっていました。次にメンテナンスの問題があります。通信環境が構築できたとしても、ルーターの再起動、電池交換など高齢者が苦手とする電子機器の維持管理を誰が行うのかという課題がありました。そこで、この2つをクリアしたサービスがあれば、一人暮らしの高齢者の見守りはもっと簡単にできるはずだと考えたのです」

 

井出氏はその発想に基づき、さまざまなビジネスコンテストに参加。年代の分け隔てなく、簡単にコミュニケーションができるLINEグループで情報を得るプランが評価され、Mashup Awards 2016 優秀賞、LINE BOT AWARDS 2017 MESH(SONY)賞、さらに2017年の信州ベンチャーサミットで準優勝に輝きました。

「2017年、タイミングの良いことに京セラコミュニケーションシステム(KCCS)株式会社さんが、センサーでモノの動き、温度の変化を感知し、それを知らせてくれる新たな通信回線「Sigfox」の発売を開始しました。しかも年額100円~で使え、Wi-FiやSIMが不要、消費電力が少ないという理想的な回線だったんです。これを使えば私のアイデアをカタチにできると考えました。今でこそKCCSのネットワークは日本の約94%をカバーしていますが、2017年当時はまだ東京圏・大阪圏の2エリアのみ。だったら近い方へ行って起業しよう!と上京したのです」

 

上京後、井出氏は東京都の創業・起業支援施設・東京インキュベーションセンター(TCIC)において起業。その後、青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)に移転し、Sigfoxを活用した高齢者見守りサービスの開発、改良を重ねてきました。Sigfoxを高齢者見守りサービスに応用したのは、VALUE CAREが日本初。現在、特許出願中とのことです。

● アプリ不要、LINEだけで皆が見守れる画期的なサービス
見守り猫さんGPS
「見守り猫さんGPS/サブスク!」。左が専用GPS端末
見守り猫さんドア~ズ
「見守り猫さんドア~ズ」写真左の要領で端末をドアに貼り付けて使用する。

では、VALUE CAREが提供している主なサービスを見ていきましょう。まずは、LINEから利用できるGPS搭載の見守り端末「見守り猫さんGPS/サブスク!」です。

「専用アプリをインストールする必要がなく、LINEと連携して見守りを行う専用GPS端末です。

利用開始時にはVALUE CAREオリジナルのLINEbot「見守り猫さん」との友だち登録が必要。LINEに専用端末の現在位置を地図表示させる方法と、使用者自らボタンを押すことで発信する方法の2通りの見守りができます。

 

「もうひとつは『見守り猫さんドア~ズ』でこちらも専用アプリは不要。冷蔵庫やトイレなど日常的に動きが生じるドアに専用端末を貼り付け、開閉を加速度センサーで感知します。こちらもLINEを活用しており、操作方法は基本的に『見守り猫さんGPS/サブスク!』と同じ。

 

「従来の高齢者IoT見守りは、代表者が一人で見守り、情報をメール・アプリで確認することも多く、背負い込む負担は決して小さくはなかったと思っています。その点で『見守り猫さん』はLINEだけですべての操作と表示を行うことができ、関係者すべてが登録できるLINEグループで見守っていただける点が特徴。一人で抱え込まず、簡単操作で使っていただけるサービスであると自負しています。また、弊社では法人向けに、見守り猫さんのLINEアイコンをクライアントのオリジナルキャラクターに変更する『見守り猫さんGPS/サブスク!』のOEM、さらに目的別のIoTシステム開発、コンサルなども承っています」

                            
● 東京はB to B企業にとって理想的な環境
青山スタートアップアクセラレーションセンター
青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)にて

展開するサービスの根幹となるSigfoxの通信エリアが、当初は東京・大阪だったことで東京に拠点を構えることになったVALUE CARE。井出氏は「仮にネットワークが東京圏になかったら、都内に拠点を構えていなかったかもしれません」とのことですが、今は東京立地で本当に良かったと話します。

「実は私は、長野県上田市を拠点として介護用品のECサイトも運営しておりまして、だからこそ気付ける東京の利点があるんです。長野のECサイトは「Business to Consumer(BtoC)」のビジネスであり、介護用品の品質が優れていれば発送する場所が東京でなくても問題はありません。しかし、東京で行っている、先述した見守りサービスの開発業務は主に「Business to Business(BtoB)」。都内に本社を置いていることで相手企業の信頼度は上がりますし、物理的なアクセスも極めて容易です。さらに、協業できる企業が地方に比べて段違いに多く、開拓できる市場も広いこと、TCIC、ASACのようなサポート場所や、補助金など支援制度の選択肢が多様なことなどから、スタートアップ企業にとっては、やはり東京の環境が最も理想的だと思います」

 

 

 

最後に今後の展望を伺いました。

「『見守られない見守り』をスローガンに、新しい事業に挑みたいと考えています。現在、弊社が展開している高齢者見守りサービスのフローは基本的に『一人で過ごしている高齢者をセンサーで見守り、異常を検知して通知する』であり、何らかのネガティブな事態が発生して初めて機能するものです。私は、このサービスは今後も継続しつつ、加えて、高齢者をポジティブに支援していく事業も始めたい。すなわち、高齢者雇用の促進です。具体的には、現役時代に培ったキャリアのブラッシュアップ、職業訓練・研修制度の整備、仕事の創出、弊社が職場に派遣する、といった事業です。そして新たに仕事に就いていただいた後、『今日出勤している』『リモートワーク前にログインした』といった状況をセンサーで検知し、健在であることをご家族に通知するのです。高齢者の社会参画の場を増やし、ハツラツとやりがいある仕事を続けていただくお手伝いができればと考えています」

 

記事冒頭で示した総務省統計局のデータでは、高齢者人口に占める就業者の割合は25.1%。65~69歳に限ると50.3%となり、2人に1人が働いている計算となりました。井出氏が挑む新事業の追い風になるかもしれません。

取材日:2022年(令和4年)9月13日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスク着用しております。)

【企業概要】
  • 施設名:株式会社VALUECARE
  • 住所:東京都渋谷区渋谷1丁目1-3
    アミーホール 3階
  • 代表者:代表取締役 井出 清
  • 設立: 2021年(令和3年)年8月24日
  • 事業内容:IoTによる見守りサービス開発・販売
  • ホームページ:
    https://valuecare.co.jp/