ico_img立地企業事例:株式会社文星閣(東京都大田区昭和島)

環境対応印刷のフロントランナー
都心にあることで高生産性をけん引し、採用にプラス

印刷部(工場)では女性社員も活躍。
印刷部(工場)では女性社員も活躍。中央が中嶋幸保社長

1948年(昭和23年)設立。コア技術であり有害な有機溶剤を排出しない「水なし印刷」をはじめ、次世代のニーズに合わせた環境対応印刷をトータルで提供する。2019年3月に工場環境を大幅に改善した本社工場を昭和島に竣工。印刷物の部数は減少傾向にあるが、その分付加価値や多様化となり色数を多く使った高度なものが増えている。世界初の「菊全UV12色両面機(注1)」も導入し競争力強化や生産性向上を狙う。「同業である印刷会社からの発注がメイン」(中嶋幸保社長)となっており、同業者の“第二工場”を目指す。アクセスの良い都内の工場で最新の技術を揃え、品質の高さを実現し、顧客の信頼を獲得する。

(注1)紫外線(UV)を照射するUV印刷に対応できる印刷機。対応油性インキと比べ、皮膜の強度が強いためキズが付きにくく、高品質を要求される印刷に適している。4色カラーに加え金・銀・蛍光色等を使い6色を用いる業務は難しい上に納期がかかってしまうが、この機械では1パス短納期で高度な印刷物を実現することができる(片面6色機の半分以下に時短・両面5色機の3分の1に時短可能)。

● 新本社では大型印刷機械を導入し、物流の課題も解決
2本社・新工場風景
2019年3月に竣工した地上4階建ての本社・新工場

新本社は東京モノレール昭和島駅から徒歩約7分で都心からのアクセスは良好。夜間作業や物流などこれまでの課題も解消した。旧工場のあった久が原は、移転当時は町工場が集積していたが、徐々にマンションが建ち気付けば住宅地に。「道路は一車線で通学路。いつ荷積みが禁止されてもおかしくなかった」(同)といった近隣環境への懸念から、移転先は工業専用地域であることを条件に設定した。また、顧客への緊急対応や立ち合い、従業員の通勤時間などを考慮し都内での建設を決めた。地方や郊外へ印刷工場を移す企業が増加するなか、利便性を強みとし他社との差別化を図る。

首都高羽田線「昭和島」インター
首都高羽田線「昭和島」インターも近い

現在、工場ではUV印刷機や水なし印刷機など8台が稼働している。中嶋社長は「自分はもともと現場の人間。これまで狭い工場に大型の機械をどう入れるかで、散々苦労してきた」と振り返る。新工場では面積は従来の1.5倍、階高も余裕ができ、作業動線が大幅に改善された。1階、2階合わせて印刷機10台を設置可能。さらにオフィスフロアの3階も平米耐荷重3トン、天井の改修が可能など将来は全階で12-14台までの増設にも対応できる設計とした。工場の竣工と同時に最新の12色両面印刷機を導入した。同社では蛍光色やメタリックなど特色を用いる高品質の注文が多いが、最新機でさらに高品質印刷物の生産性を向上、短納期、低価格化にもつなげる。

● 現場の平均年齢は35歳。明るい工場で元気なあいさつが響く
高品質な印刷に対応できる菊全UV12色両面機
高品質な印刷に対応できる菊全UV12色両面機(小森コーポレーション製)

工場に訪問客が見えると、和気あいあいと作業する社員の元気なあいさつが響く。業界では高齢化や人手不足が進むが、同社は定期的に若手社員を採用しており、現場の平均年齢は35歳だという。「定着率が良いため多くは採用できない」(同)が、来年は再雇用者の定年のため新たに5人の採用が決まった。さらに女性社員の活躍も同社の特長で、印刷部には6人の女性が在籍する。「もともとは管理部志望だった子が、印刷機を操作する社員を見てかっこいい、と。印刷部配属になりました」(同)。高い志を持つ社員が同社の未来をけん引する。

● 80年代から着手した環境対応印刷が今は会社の強みに
社長
環境対応印刷は苦労の連続だったと語る中嶋社長

有害な廃液を出さない水なし印刷やFSC認証紙、植物油インキを使用したベジタブルオイルインキなど総合的な環境対応印刷への提案は「他社にはなかなか真似できない」(同)と自負する。1985年に先駆けて水なし印刷への取り組みを開始したことについて中嶋社長は「先見の明があった訳ではない」と笑う。

印刷といえば当時は3Kの業界で、社員を教育しても定着せず辞めてしまうケースが多かった。通常、印刷は「湿し水」と呼ばれる水とインキ(油)の反発の原理を利用しているが、この湿し水をコントロールする技術の習得は難しく負担のかかる作業だ。そこで「水がなければ負担は減るだろう」との考えで、水の代わりにシリコン層を用いる水なし印刷に着手。しかし、前例がなく手探り状態での挑戦は苦労の連続で、同業者は相次いで挫折した。その中で持ち前の粘り強さとチャレンジ精神で研究を重ね、ノウハウを蓄積。今日水なし印刷の品質は向上し、環境対応として注目を集めている。

今後もチャレンジ精神を受け継ぎ、普及が見込まれるLIMEX(注2)への印刷など時代のニーズに対応した新技術に取り組む。

(注2)株式会社TBMが開発・製造する石灰石を主成分とした紙の代替となる新素材。原料の石灰石は日本で100%自給自足できる資源で今後の普及が期待される。

取材日:2019年(令和元年)11月1日

【会社概要】
  • 会社名:株式会社文星閣
  • 住所:東京都大田区昭和島1-5-32
  • 代表者:代表取締役会長 奥 継雄 氏
    取締役社長 中嶋 幸保 氏
  • 設立:1948年(昭和23年)
  • 業種:印刷業
  • 土地:2643平米、建物:5328平米
  • ホームページ:http://www.bunseikaku.co.jp/
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